INTERVIEW: Her Self-nourishment
TO UNITED ARROWS ディレクター・浅子智美さん
Text&Edit: Eriko Azuma
Photo: Ko Tsuchida
ブランドコンセプトでもある“ Self-nourishment ”をテーマに、デザイナーSayaka Tokimoto-Davisが今気になる人をゲストに迎え、心の赴くままにトークセッション。
第二回目のゲストは昨年11月にローンチされた、ヨガウエアを軸としたユナイテッドアローズの新レベール「TO UNITED ARROWS」のディレクションを手がける浅子智美さんです。
心と体の健康があってこそ、素敵な服で自信をまとう
Sayaka Tokimoto-Davis(以下 Sayaka):浅子さんからTO UNITED ARROWSとのコラボレーションのお話をいただき、ヨガウエアに合わせるイメージで、シャツとドレスを作らせていただきました。企画、バイヤー、ディレクターとして活躍しながら、ヨガインストラクターとしての顔も持つ浅子さんにすごく興味があって、一度じっくりお話してみたいと思っていたんです。
浅子智美(以下浅子):ありがとうございます。私もうれしいです。TO UNITED ARROWSの構想が始まったのは、まさにコロナ禍の2020年。ユナイテッドアローズ社はこれまでファッションを軸に商品を展開していたのですが、コロナ禍による自粛や生活環境の変化の中で、「衣食住」すべてが大切なのだと、価値観が変化しました。心と体が健康であってこそ、そこに素敵な服を着て自信をまとうことができる。「心と体の健康」の大切さに立ち返ることで、自分の日常にあったヨガがこんなにも大事な存在だったんだと実感したんです。会社としてもファッション以外の事業を広げていこうというタイミングだったので、TO UNITED ARROWSを立ち上げることになりました。
Sayaka:浅子さんはユナイテッドアローズ ウィメンズのバイイング、ディレクションも兼務されているんですよね?
浅子:バイヤーは2017年から、昨年からウィメンズのファッションディレクターに就任し、同時期に新レーベルもスタートという形になりました。TO UNITED ARROWSの構想は2020年の5月ごろから始まったのですが、物を作るにあたって、サステナブルな背景にひとつひとつこだわっていたら時間がかかってしまって。でもその部分をおざなりにするよりは、できることをしっかりやってからスタートしたい、という思いがあり、当初の予定より時間がかかりましたが、昨年11月のローンチになりました。
Sayaka:私もコロナ禍で考えさせられたことが多くて、今おっしゃったことにとても共感しています。改めてサステナブルな選択の重要性や、心と体の健康の大切さにも気づかされました。ブランドのコンセプトを見つめ直し、“Self-nourishment”という言葉を掲げたのですが、それにつながるものがあると感じています。ファッションって自分への愛情表現だと思っていて、心と体は繋がっているから、両方へのアプローチが必要だと思うんです。「心と体」、これはまさにヨガの精神に通じますよね。ヨガはいつ頃からやっていらっしゃるんですか?
浅子:大学生の時、友達に誘われ軽い気持ちで当時ブームだったホットヨガに通い始めました。そしたらすっかりハマってしまって、そこから様々な流派のレッスンを受けたり、海外のレッスンに参加してみたり、なんだかんだで18年。ストイックにポーズを極めた時期も、本当に細々と続けていた時期もありますが、社会人になって仕事の職種が変わっても、ヨガはいろんな付き合い方でずっと寄り添ってくれた存在です。インストラクターの資格は、2019年から2020年の年末年始にバリ島で取りました。それから半年後に、自分がヨガのレーベルを手がけることになるなんて、その時はまったく思いませんでした。
ルーティンの積み重ねが、ぶれない軸になっていく
Sayaka:インストラクターの資格を取ろうと思ったきっかけは何ですか?
浅子:「Stay present, Empty your mind―今ここにいて心を空っぽにしようー」というヨガの言葉があります。今これをやったら、次これをやってと、日常ではどうしても未来や過去のことを考えてしまうじゃないですか。でもヨガマットの1帖ちょっとのスペースの上にいると、今ここにいる自分に集中できて、いつでも自分自身にもどることができるんです。自分をこんなにも魅了するヨガという存在をもっと深く知りたい。と思ったのがきっかけでしょうか。苦手なポーズは体の構造を知ったらもっとうまくできるのかなとか、ヨガの背景にある哲学や解剖学とかも含めて、一度しっかり勉強したいと思ったんです。 SAYAKAさんもヨガをやられているんですよね?
Sayaka:始めてから7年ほど経ちます。始めた頃は運動目的がメインでしたが、今はメンタルの部分でも、ヨガを頼りにしています。以前はスタジオに通っていましたが、今は自宅で仕事前にリセットの時間として取り入れています。とはいえ忙しい時はスキップしたり、毎朝はできていないのですが。
浅子:私もコロナで出勤できなくなった時、毎朝走っていたんです。生活のリズムが狂うのが嫌で、結構ストイックに走っていたのですが、「やらなくちゃ」という義務感になるのも気持ちよくないなと思うようになりました。できたらベストだけれど、できない自分も許してあげよう。そういう柔らかさを持ちつつ、自分のルーティンを作れたらと思っています。
Sayaka:浅子さんは、ヨガを続けてこられて変化したことってありますか?
浅子:会社でも、ふとした時にヨガの呼吸をしているんです。イライラしたり情報過多になった時もちょっと呼吸するとすっきりします。
Sayaka:まだスタジオに通っていた頃、インストラクターが言っていた「As long as you control your breath, no one can control you - あなた自身が呼吸をコントロールする限り、あなたは誰にも支配されない」という言葉が印象的で、呼吸ってすごく大事なんだなと思いました。深呼吸するだけで気持ちがすっきりしたりしますよね。
浅子:いい気を出すためにいいものも取り入れたいし、辛いことは吐き出していくっていうイメージ。日常生活のふとした時にヨガっぽい呼吸をしていることに気がつくと、ああ、ちょっと落ち着かなきゃ、って思います。ヨガが他の運動と一番違うところって、動きと呼吸が連動していること。呼吸と体の動きがひとつになると、軸がぶれなくなるんです。
今は食べるものにも気を配るようになりました。添加物を摂りたくないので、出勤時は基本的にお弁当を作ったり、外で友達と会う時は制約していないのですが、畜産が地球温暖化に影響を及ぼしていると知ってから、あまり動物性のものを食べなくなりました。その分補うべき栄養ってなんだろうと、野菜の栄養を調べたり、必要な栄養素を調べたり。そうして体に摂り入れるものを変えて運動をして、今はいいバランスに落ち着きました。
Sayaka:すべてがつながっていきますね。
浅子:もちろん飲みすぎちゃう日もあるんですけど(笑)。自分を甘やかすことも時には必要なので、頑なに0か100か、にはしないようにしています。サステナブルなものづくりへの取り組みも、0か100じゃないって言うじゃないですか。ステップ バイ ステップで少しずつやっていくことが大事なので、目標に向かいながらも、ゆとりを持って進んでいきたいなと思います。体のサステナビリティも、地球のサステナビリティも、続かないと意味がないかなって。
Sayaka:物作りの環境負荷について、調べれば調べるほど、「これもできていない。あれもできていない。」と焦ってしまった時期があって。でもストレスになってしまうと楽しく続けていけないし、会社的な体力もあるので、今はできることから一つずつ。焦らずに続けていきたいなと思っています。
浅子:展示会にお邪魔すると少しずつその比率が増えていらっしゃるなと感じます。ファッションってサステナブルだから買うわけじゃない。やっぱりそのものが素敵で可愛い、という思いが原動力。そういうものがサステナブルだったらうれしいですよね。
Sayaka:やっぱりファッションで気持ちを明るくしたい、というのが私たち作り手の一番の想い。それが環境に配慮されていることは、着る人にとっても気持ちが良いことだと思うんです。
浅子:今回コラボレーションをやらせていただいて、マインドが共感できる人との物作りは、一緒に目指すところに向かっているという実感があって楽しかったです。お店で商品を見たり、SAYAKAさんのサステナビリティへの思いを聞いている中で、共通点をたくさん感じました。
ヨガウェアの上に、SAYAKA DAVISの夏のシグネチャーワンピースをさらっと重ねるイメージが自然に結びついて。春夏の太陽が似合う季節にお願いしました。
Sayaka:今回はヨガの行き帰りに着る洋服をテーマにデザインしています。
浅子:レギンスを着る時にお尻を隠したいとか、脱いでもシワにならずバッグにすとんと入れられる素材がいいとか、「こういう服があったら」というリクエストをさせていただきました。感動したのが、SAYAKAさんがサンプルの着用写真を送って下さった時。レギンスにビルケンを履いてシャツを羽織って、まさにこのスタイルと思い描いていたバランスで。お尻が自然に隠れる丈がいいねとか、ワンピースのネックはラウンドだとブラトップとぶつかってしまうからスクエアネックがいいとか、サンプル確認の段階からやりとりがスムーズでうれしかったです。
Sayaka:お互いの「こんなものを着たい」というリアルなイメージが重なりましたね。浅子さんとの最初のミーティングで印象的だったのが、「今はアシンメトリーなデザインのヨガウェアも人気だけど、バランスを大事にしたいから、シンメトリーに拘っている」というお言葉。TO UNITED ARROWSのウエアは「軸」を大事にされているのだなと、そしてそれはヨガに造詣の深い浅子さんならではの視点だと感じました。
Sayaka:浅子さんにとっての“Self-nourishment”とは何でしょう?
浅子:自分の軸となるルーティンを作ることが“Self-nourishment”に通じるように思います。毎朝白湯を飲んでいるのですが、起きて白湯を飲むと、気持ちの上がり下がりがあってもすっと落ち着く。走ったり、食事にこだわったり、ヨガをしたり、そういうルーティンのようなものは、自分を認めるというか、自分を愛していくためにやっていることだと感じます。
朝、ぼーっとしながら白湯を飲んでリセットする。太陽の光を感じながら走って自分をいい状態に持っていく。そのうえで、今日はこれを着よう、と服を選ぶと、洋服からも自信が得られる。そういったちょっとした自己肯定を毎日積み重ねていくことが、自己の栄養になっていくのではないでしょうか。
ユナイテッドアローズ ブランドディレクター・バイヤー
浅子 智美
2007年、株式会社ユナイテッドアローズ入社。店舗勤務を経て本社マーケティング部門に移動。2017年よりウィメンズ商品部へ異動しバイヤーに。21年10月よりウィメンズのファッションディレクターに着任、バイヤーと兼務。21年11月にヨガ歴18年の経験を生かした新レーベル「TO UNITED ARROWS」を立ち上げる。