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INTERVIEW: Her Self-nourishment

ミュージシャン・文筆家 カヒミ カリィさん(前編)

Text&Edit: Asako Ueno
Photo: Kimisa H

ブランドコンセプトでもある“Self-nourishment”をテーマに、デザイナーSayaka Tokimoto-Davisが今気になる人をゲストに迎え、心の赴くままにトークセッション。

第四回目のゲストはミュージシャン、文筆家、フォトグラファーとして活躍するカヒミ カリィさんです。

共にアメリカで暮らす二人の、日々の暮らしの中で大切にしていることとは…。

ニューヨークの暮らし、陶芸との出会い。

好きなことを見つけて自分のバランスを取る

Sayaka Tokimoto-Davis(以下Sayaka):東京、パリ、京都、ニューヨークと拠点移されてきたカヒミカリイさんですが、ニューヨークへの移住のきっかけは何だったのでしょう?

カヒミ カリィ(以下カヒミ):2011年にニューヨークに引っ越してきました。娘のニキが生まれた年に東北の地震があって、その経験から、改めて家族や命の大切さを考えさせられて。子どもが生まれたら、自分が正面から向き合って育てたいと思っていたので、料理や生活の細かいことをするのも好きだったし、じっくりそれらにフォーカスした生活をしよう、と思ったのです。2010年に、最後のアルバムをリリースして以来、単発のお仕事はしていますが、ソロ活動はお休みしています。

Sayaka:ニューヨークに来られて、生活がガラッと変わったのですね。

カヒミ:ニューヨークに住むこと自体は、フランスの経験もあったので不安はなく、ワクワクするくらいの気持ちでした。でも、最初の頃は、アメリカとヨーロッパのカルチャーが思っていた以上に違って戸惑ってしまったり、子育てはエンジョイしていましたが、自分自身の時間が取れず、家族分のご飯作りや家事で1週間が、あっという間に過ぎてしまいました。半年くらいは、お友だちも少なかったんですが、その後、いいお友だちにも出会えて、暮らしが一気に楽しくなりました。

Sayaka:最初のお住まいはブルックリンを選ばれたのですね。

カヒミ:はい。住まいに選んだブルックリンのパークスロープは、近くに大きな公園があって、買い物にも便利で、ニューヨークとはいえ、郊外な感じがあって大好きになりました。

Sayaka:最近は、どんな事に興味をお持ちですか?

カヒミ:陶芸にはまっています。引っ越して4年目に、お友だちに誘われてマンハッタンの陶芸のクラスに行ったら、とても気持ちが良くて、週一回通うことにしたんです。ハンドビルドよりロクロに惹かれて、週一回ではいつまでも上手くなれない!と家にロクロを買って。その後、陶芸のスタジオも家の近くに移しました。ロックダウンになって通えなくなりましたが、ロクロを持っていたおかげで続けられています。

Sayaka:今は、ニューヨークから車で3時間くらい離れた田舎町にお住まいですね。そちらでも陶芸を?

カヒミ:はい。偶然なんですが、薪窯もある陶芸スタジオの近くに引っ越す事ができたので続けています。今の一日は、朝、お弁当と朝ごはんを作って、娘を学校に連れて行って、メールの返信や仕事などをし、体が忘れないように、午前中に一回はロクロを回す事にしています。午後は、また家事や原稿の仕事をこなしていると夕方になって。娘を迎えに行き、夕飯を作って、食後にまた原稿に向かい、もう一度少しロクロを回しています。ロクロの前に座るのって、思春期の思い出とデジャブするんですよ。父に初めて買ってもらったレコードプレーヤーが嬉しくて、正座してレコードを聴いていた風景と重なるんです。それくらい好きな時間です。何もない田舎でロクロが回るのを見つめていると、私は、いつも何か作っていないと自分のバランスが取れないんだなと感じます。今はそれが陶芸で、ロクロに助けられているのです。

食事はルールを決め過ぎず、身体にいいものを大切な人と美味しく頂く

Sayaka:カヒミさんの、ナチュラルでオーガニックな生活に憧れている女性も多いと思います。食生活で日々大切にしていることはありますか?

カヒミ:一時期はベジタリアンだったり、フランス時代はお肉を食べなかったりしましたが、今振り返ると体調はあまりよくありませんでした。その後、アーユルベーダの勉強を通して、健康な食事は、人それぞれの体質によって違うということを学びました。食材に関しては、体にも環境的にも良いものを、なるべく選ぶようにしています。今はお肉もお魚も頂きますが、それらがどこで、どんなふうに育ったかを大切にしています。家の近くのお店では、ローカルなものは「何々さんが作った」と書いてくれていて、安心してお買い物ができるんです。

Sayaka:大きな流通じゃなくて、ローカルな人たちを応援することも大事ですよね。私も、なるべくお金の使い道や落とし所を考えたい、と思っています。

カヒミ:お野菜や果物も、季節に採れたものはお値段も安いし、体にも優しい。でも、あんまりストイックになっても楽しめないし、旅先やお友だちの家でご馳走になる時などを考えると、ルールをガチガチに決めるのは、あまりよくないと思っています。子どもが、学校の打ち上げでチップスやM&Mを出されて食べても、たまにだし楽しそうで良いね、と思います。基本的には、体にいいものを大切な人とわいわい食べられる、っていう感じを大切にしています。選択肢のバランスを考えながら、どれも上手に取り入れたいですよね。お肉が向いている人とそうでない人がいると思うので、何がいいとはっきりは言えないなと思ってます。ロ-カルのものを中心に選びつつ、和食材などはちょっと工夫しています。 田舎だと手に入らないものが多くて、納豆を作り始めました。早2年になります。美味しいのができるようになってきましたよ。

Sayaka:手作りの納豆!カヒミさんは美味しいところまで極めてしまいますね。

カヒミ:ハマり症はあるかも(笑)。納豆作りは発酵させるのに時間はかかるけど、簡単です。お味噌も作りますよ。都会に住んでいた時は、美味しいものが手に入るので、自分で作ろうと思った事はなかったんですが、田舎だと手に入りにくいので仕方なく作ってみたら、思いがけず楽しくて。田舎に引っ越していなかったら、興味はあるけれど作ってはいなかったと思います。昔のサザエさんで、セーターを解いて別のものに作り直すシーンとか、あったでしょう?昭和の初期の頃は、親が子供の制服を作っていたという話を何かで読みました。当たり前のようにお裁縫ができた昔の人って、すごいですよね。今は、そういう力が衰えている気がします。

一日の幸せな時間を考えてみる。眠ることと友だちとの時間がリチャージ

Sayaka:カヒミさんが、日々幸せを感じる瞬間は、どんな時ですか?

カヒミ:一日が無事に終わったと感じる時。娘の寝息を聞く時。娘を学校に送って、散歩しながら帰る時。鳥の声が聞こえる時。心地よい音を自然や生活の中で聞くと、幸せな気持ちになります。ロクロを回している時も、緊張感と同時に無になれるので、とてもリラックスできるんです。歌を歌っている時も無になる時があって、それは精神的にも良い瞬間です。

Sayaka:一つのことに集中して周りがなくなるという感覚は、頭がすっきりしますよね。リチャージはどのようにされていますか?

カヒミ:眠ることが好きなんです。カウチでもどこでも、シンプルに眠ることがリチャージになっています。もう一つは、友だちとの時間。兄妹もリラックスして支え合える大事な存在です。歳をとって、特に女友だちの存在がありがたいと思うようになりました。最近、そういうことを感じます。

Sayaka:私は、愛知と岐阜の田舎で生まれ育って、思春期にカヒミさんの曲を聴きながら、こんなにおしゃれな世界があるのだな、かっこいい!と刺激を受けました。今のカヒミさんのナチュラルさも、とても素敵です。

カヒミ:普段はずっとこんな感じです。表に出る時ってプロの素晴らしいスタッフの方々とお仕事をさせて貰っているので、私、バージョンアップしているんですよ(笑)。今は音楽活動を控えているのに、たくさんの方がインスタグラムや「暮しの手帖」、「veggy」の連載やブログをちゃんと見てくださっていて、本当にありがたいなと思っています。

Sayaka:皆さん、年齢を重ねていくカヒミさんをずっと見守っていたいのではないでしょうか。みんなでいい感じに歳を重ねていきたいですね。

ミュージシャン、文筆家

カヒミ カリィ

91年デビュー以降、国内外問わず数々の作品を発表。音楽活動の他、映画作品へのコメント執筆、字幕監修、翻訳など幅広く活躍。これまでカルチャー誌や文芸誌などで写真や執筆の連載多数。連載「暮しの手帖」「veggy」。開催中の2022ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展、ダムタイプの作品にVoiceで参加。2012年よりアメリカ在住。

nstagram @kahimikarie_official